社会的DNAの検出・解明
DNAが二重らせん構造を持つのであれば、それからなる人間が作る社会もまた二重らせん構造をもつのではないか。この着想が、社会的DNAすなわち系譜学的多層共同性のメカニズムの解明を本研究の目的とさせた。そのため本研究では、社会遺伝、とくに知の主体である人間の系譜を「社会的DNA」の情報源として扱う。
表現の問題:普遍的ながら史料的価値が低いとされてきた家系譜および家系情報について、その膨大な関連資料のテキスト・データの処理を円滑に行うことが必要となる。そのために30年来の研究対象としてきた地域コミュニティ単位で、年代および社会経済史的データを組み込む立体的座標配置により群体として復原し、本立体系譜学的社会重層ネットワーク・データシステム(略称OZ.GEDCOM)を構築している。社会・経済の歴史の表層の裏側で作用していた諸系譜網の解明に実用化させることを目標にする。以上をミクロ的アプローチとし、同時に全国的なデジタル・データを多元的に集合させマクロ的分析としてミクロと接合する。
これまで長年取り組んできている市場経済形成期の日英(欧)村落の対比研究は、重層性を示す、1つのコミュニティでありながらもさらに大きなコミュニティの入れ子の連鎖としてある、社会的DNAと呼ぶしかない、系譜学的重層共同性の検出をもたらした。様々な社会経済事象の裏側にある、概して持続性の強いネットワーク・諸関係網である。日英の時代背景の異なる村落のそれぞれ歴史的独自性を尊重しながら共通・相似・相違点を対比していく実証研究の上に導出されたものである。
拙著『村の相伝〈日英対比研究編〉—社会的DNAの検出—』(刀水書房、2021年)2020年度学術振興会科研費研究成果公開促進費)現在、立体系譜学的社会重層ネットワーク・データシステム(略称OZ.GEDCOM)を構築し実用化させるべく公開している。
本研究は、社会的DNAという観点から、系譜データという貴重資源が広く世に実用されると予想しうる。グローバリゼーションにともなう市場経済化によって人びとの間の信頼・信用のネットワークが旧来の血縁・地縁関係を超えて新たに形成され、そのネットワークが市場経済の進展を支える重要な制度的基盤となっていることを検証しようとするものである。最終的には「人類全体の家系図」の礎として、人文社会科学の中にあって長年ほぼ独自の世界を保ってきた系譜学と隣接する社会経済史学を含む隣接諸分野との架橋を可能にする。